yakinikunanzan会長の事業承継奮戦記

子育てと事業承継について

いのちあるものを食べる

yakinikunanzan2009-01-11



念願かなって、子どもたち6人を連れて映画「ブタがいた教室」を見てきました。
小学6年生の子どもたちが、「食べる」と言う前提で育ててきたブタを、食べるか食べないかで、卒業ぎりぎりまで悩みぬくというストーリーです。


愛すべきクラスの仲間となったPちゃんへの責任をどうするか、悩み傷つき“いのちの長さは誰が決めるの?”と、正解のない問いに向き合う子どもたちの姿に涙しました。


この映画を見た後、「ブタがいた教室」では描かれることのなかった「食となる命」の現場、近江牛の木下牧場へ行きました。



生後間もない子牛がおっこらしょと立ち上がるかわいい姿(↑)や、少し大きくなって集団に慣らされている子牛ちゃんたち(↓)



そんな中に、昨年ご主人が入院中に生まれ、その折に加勢に来て手柄を上げた若者がご褒美にもらったという子牛も元気に育っていました。
この子牛は、初めての「自分の牛」を育てる若者に特別扱いされ、かわいいベストを着せてもらっていました。



こんな風に、大切に育てられている牛の命を、私たちはいただいています。


ここの牛さんたちは、勝手に生まれてきたわけではなく、ここの牧場主さんの意思で選ばれた素牛(お母さん牛)に人工授精で命を授け、誕生しているのです。


人間が食べるため、人間の手で命を授けられた牛さんの命の長さは、この牧場主さんによって決められます。
一番おいしいお肉になる時期、これがこの牛さんたちに与えられた命の長さです。


うちの小学6年生の息子は、この日、肥育牛舎の餌やりを体験させていただきましたが、うら若い木下家のお嬢さんたちお二人の指導のもと、仕事を終えてもらした感想は・・・
「あの女の人たち、すごいで。20キロ入りの餌の袋を20個以上運ぶんやけどな、それはオレにも運べたけど、その餌を入れた入れ物は、オレではびくとも動かんかったのに、あの人たちは簡単に運んではったわ・・・。」


我が家の小学6年生は、仕事として「命ある食」の現場で働くという、とてもよい体験をさせていただけたのでした。


そしてこの日、命の長さを南山が決めさせていただいた牛さんにも会ってきました。
22才の別れとなる19産した偉大なお母さん牛です。




この牛さんは、昨年3月に19番目の末っ子(♂)を生み、まだまだ元気ではあるけれども、もうこれ以上負担をかけず引退させてやりたいと言うことで、末っ子が離乳した昨秋から肥育舎に移されているのです。


このお母さん牛は、木下その美さんのご両親・後藤さんご夫妻が近江牛繁殖肥育一貫経営を始められた際の初代母牛で、牧場主さんの思い入れもひとしおのものがあります。


このお母さん牛を見て驚いたのは、人間と一緒で(?・・・当社比)、産後もお腹が大きいまま万年妊婦体系なのです。


そして、のんびりと引退した後は、なんと! 白髪だったまつ毛が黒くなってきたとのこと。
本当に左目のまつ毛は黒くなっています!!


今は後藤家のお嫁ちゃんが世話をしておられるのですが、彼女が嫁入りする前からここにいた大先輩。
お嫁ちゃんのやって来る車の音を聞きつけると、騒がしく餌をねだるということで、元気元気で、食欲旺盛だそうです。



このお母さん牛、毎年子牛を生み続けた功績を讃えて表彰もされており、後藤のお父さん・お母さんに改めて栄誉ある表彰状とトロフィーを持って記念写真に納まっていただきました。


後藤さんご夫妻は、琵琶湖を埋め立てた大中の湖干拓地の初代入植者で、40数年前の入植時は腰まで泥につかる稲作を始められたものの、たちまち減反政策でスイカを作るか、牛を飼うか・・・と言う選択を迫られ、牛飼いを始められたのです。


乳牛からはじめ、肉牛肥育の道に入られてからは、耳学問で本来の近江牛「但馬の血を引く、近江で生まれ育った牛」を追求され、最初にこのお母さん牛を素牛として導入されたのでした。血統書にははっきりと但馬の血が記載されています。



北海道広尾郡忠類村の大中の湖農協(滋賀県の大中の湖農協と同じ名前には驚きでした)で父「中包」、母「たつのり」から昭和62年4月2日に生まれた「なかのり」さんです。


大役を終えて引退したこの「なかのり」お母さんには少しでもおいしくなってもらい、南山でもうんとおいしいお料理にしてたくさんの方に召し上がっていただこうと、「敬牛祭」を企画しています。


この牛さんの命を最大限に昇華させてあげたいと、華やかなちょっとおしゃれなメニューも考案中で、たくさんの方が、この牛さんのために力を貸してくださっています。
振り向いても美人のフードアナリスト美穂さんも、ご協力くださることになり、南山の厨房で打ち合わせをしました。



しかし・・・、牛の寿命は20年ほどと言われる世界で、19産しながら23年近く生き抜いたおばあちゃん牛の味はどんなものでしょう・・・。

再肥育された経産和牛肉は、筋肉組織のシッカリとした味の濃さ(アラニン・ヒスチジングルタミン酸等、遊離アミノ酸の溶出)、脂肪組織に於ける風味・甘味など芳香物質(スタキオース・アラビノース・キシロース・バニリン)の多さに関しては、一般的に未経産和牛のそれを上回ります。


と、その道のプロからもこの企画へのメッセージを頂き勇気凛々!
見た目ではなく安全性と味本位の牛肉をお客様に食べてもらいたい南山だからこそできる、味のあるメニュー作りをしたいと思っています。


近江で一番長く育ったであろう偉大な近江牛「なかのり」お母さんは、3月8日(日)に牧場からトラックに乗せて食肉センターへ出荷されることになりました。
この日はうんときれいに花で飾り、新しい命の旅路へと送り出してあげようと話し合っています。



この、なかのりさんのまなざしに耐えうる焼肉料理屋を目指し、よい仕事をさせていただければと思っています。