yakinikunanzan会長の事業承継奮戦記

子育てと事業承継について

牛肉の奥深さに魅せられて


2月15日の大きなイベント「牛を愛する仲間たちの勉強会と10種の赤身和牛食べ比べ試食会」が無事終わりました。
当日は、「人と牛とふるさとを育てる放牧畜産研究会」の会議から始まり、松本先生の講演会の後、14種の和牛の食べ比べ…という大変な1日でした。


「人と牛とふるさと・・・研究会」では、専門家の先生たちが、新しい価値観での牛肉生産の指標づくりと、牛肉ソムリエ制度について、ワイワイと意見をだしてくださり、本当に面白い会議になりました。
牛肉の格付けを市場に任せて価格操作させるのではなく、消費者目線での「牛肉の値打ち」の指標をつくろうという試みです。


アニマルウェルフェアの評価では、Five Freedoms(1.飢餓と渇きからの自由、2.苦痛、障害又は疾病からの自由、3.恐怖および苦痛からの自由、4.物理的、熱の不快さからの自由、5.正常な行動ができる自由)をアメリカの基準そのままを持ってくるのではなく、除角、耳標、鼻環、外科的去勢は、禁止事項からから外すことで牛の健康管理や飼育者の安全管理を向上させようということや、頭数に応じた放牧地が確保できないところでは自給飼料の生産に力を入れ、牛は運動場をつくって日光浴もさせ…と、狭い日本ならではの評価基準を検討し、牧場の情報公開のあり方(ブログでの情報発信)についても、話が弾みました。


そんな有意義な研究会が終わるころには、どんどん講演会場に人が集まり、午後3時半からは松本大策先生のお話「これからの畜産を考える」会です。




牛を霜降りにするために、大量の穀物が使われ、それが途上国の子どもたちの飢餓をつくっている問題や、肥育農家さんの原価率は100%を超える異常な事態になっていること、そんなことにもショックを受けながら、さらにTPPを前に、ほんとうにどうやって自国の食を守っていけるのかという深刻なお話など・・・。
「幸せのあり方」を真剣に考えさせられました。


そんな難問だらけの畜産に希望をもたらすのは、新しい価値観での牛肉の評価を支える焼肉店や料理人、そして消費者といわれる肉を食べる人たちです。
松本先生の講演の締めくくりは、「正義の味方はここに集まった人たち」ということで、スクリーンには、会場のみんなの写真が映し出されたのでした。


松本先生のお話の後は、14種の牛肉をストーリーと共に味わう会。


まず最初は、5種の黒毛和牛の生産者さんからストーリーを聞いて、どれがどのお肉か認識して食べていただき感想を書いてもらいます。



南山では扱ったことのない黒毛和牛5種ですが、お肉の特徴が良くわかるよう、断面が大きく見える薄切りにしての提供です。
気合を入れて出品された黒毛和牛たちですからどのお肉も充分おいしいのですが、生産者さんの語りを聞いて味わうと、お肉はさらに美味しさを増すのです。


アンケートでは、飼育法、ストーリー性、見た目、味の4項目で「いいな!」と思った点に丸をつけてもらいました。


その結果、「いいな!」の得票が多かったのは、群馬の石坂牧場さんと三重の豊田畜産さんのお肉です。
どちらも、手づくりのパンフやチラシを用意して自分達の取り組みや思いを一生懸命伝えた方のお肉でした。


実は、三重の豊田畜産さんのところからは、黒毛の提供のタイミングが合わず、ホルスタインと黒毛の交雑種(F1)が出品されていたのですが、あえてそのことを伏せて皆さんに提供していたので、F1と意識しないで食べていただいた結果の素直な評価が貴重です。


そして次はいよいよブラインドテイストでの食べ比べ。
これには、先ほどの5種にプラス、南山の近江牛と京たんくろ和牛を加え、7種を言いあてていただき、気に入ったお肉を3つ選んでもらうという挑戦です。



ここでも、本当に面白い結果が出ました。
まず、全問正解者ゼロ! というわけで、4つだけ正解という方4人が賞品をゲットされました。


人気投票の集計でも面白い結果になりました。
なんと、近江牛と奈良の大和牛が上位入りでした。


試食会には、奈良の生産者さんはおいでになれなかったため、代わりに飼料会社の方がプレゼンをなさったのですが、その影響もあってか(?)、5種の食べ比べでは、「いいな!」の数が奈良が一番少なかったのです。
が、ブラインドでのお気に入り得票は近江牛に次いで1票差の2位!


人気投票で「京たんくろ和牛」が最下位だったのも、興味ある結果でした。
京たんくろ和牛に投票しておられたのは、南山の常連さんや、タンクロを食べたことのある方たちだったからです。
初めて体験するちょっと違う味は、みなさん「お気に入り」には入らなかったようで、食べ物の味は、まずは「知ってる味への安心感」という要素が強いのです。おふくろの味が世界一! というのは、こういうことなのではないでしょうか。


松本先生は牛肉の味に一番重要なのは、「愛」だとおっしゃいます。ストレスなく愛されて育った牛のおいしさということで、木下牧場の近江牛がトップに立ったのことには納得がいきました。
木下牧場は、人工授精からご自分でなさるので、牛1頭1頭に対して、どこまでも語りつくせぬほどの愛情物語を持っておられるのです。


木下牧場さんは、ご自分のところの牛のお肉をしょっちゅう食べて味の検証をしておられるので、今回も、ご自分のお肉だけは7種の中から明確に言い当てられ、おみごとでした。



回収できたアンケートは70枚でしたが、皆それぞれの好みがここまで分かれるとは・・・です。


福井のお肉に惚れた人、群馬のお肉を抜群と評価した人、大阪のお肉に最高点をつけた人・・・と、甲乙つけがたいお肉の中からあえてお気に入りを選ぶというのは非常に難しいことでしたが、皆さん真剣にアンケートへご協力くださいました。本当に、心から感謝です。



さて、後半は、希少な赤身の牛肉7種の食べ比べです。
アルコールも入って盛り上がり、すっかりリラックスムードになったため、アンケートの回収率は悪かったのですが、普段食べられないお肉のオンパレードです。




アンケートの結果は、味について「いいな!」がついた上位に、二戸の短角と岡山の地備栄短角が入り、「お気に入り」として3つ選んでもらった中では、田野畑山地酪農ビーフが上位入り。


アッと驚くような取り組みから生まれたお肉の意外な美味しさに、皆さんあちこちで盛り上がっておられました。


120カ月齢の放牧仕上げの黒毛和牛「熟ビーフ」を食べて、「これをシチューにすればステキ!」とか、「十勝若牛が、13ヶ月弱でこれほどおいしいことに驚いた。これは革命的!」とか、「2シーズン放牧の岩泉の短角の味がよかった」、「北十勝の短角牛のダイナミックさに魅力を感じた」など…、皆さんの語られていた感想がとても貴重でした。


後半戦に出された「希少な赤身肉」は、黒毛和牛とは違う希少性を強烈にアピールできますが、安定した流通のラインがない中で、生産と消費のバランスをとっていかないと成り立たちません。
今回の試食会で、美味しいと感じてもらう仕掛け、気にいってもらう方法が、私たちにもすごく良い勉強になりました。


最後に、和歌山のくろさわ牧場さんが周年放牧で取り組んでおられる山地酪農牛乳でつくったアイスクリームをデザートにいただき、日本の畜産を支えておられる素敵な方々の取り組みをぜいたくに味わって会を閉めました。


今回の試食会の準備に当たっては、サカエヤの新保社長に大変お世話になりました。
素晴らしい生産者さんたちのお肉を、どこまできちんと丁寧にカットして提供するか、新保社長は、今回の勉強会と試食会の主催者の一人として南山の現場に何度も足を運んでご指導くださいました。




新保社長の牛肉にかける思いや知識と、神技のようなカット技術に南山のスタッフたちは魅せられ、牛肉の世界の奥深さをしっかりと学ばせていただくこともできました。


「牛肉を、その特徴に応じて捌いて料理する」という、奥深くて面白くてカッコ良い仕事が、若者にとっての最高の憧れとなってほしいと、「牛肉ソムリエ制度」も「人と牛とふるさとを育てる研究会」で、追及していきます。


研究会メンバーたちは次の企画に向けて、想いを馳せています。
そのメンバーの一人、生産者さんと共に歩む焼肉屋の南山がめざすのは、100年先の子どもたちから誉めてもらえる「食の守り手」としての姿です。


今回の「牛を愛する仲間たちの勉強会」にご参加くださった皆様、共催・協賛してくださった皆様、本当にありがとうございました。