yakinikunanzan会長の事業承継奮戦記

子育てと事業承継について

イスラームの食文化との出会い

京都に来られるイスラーム圏の方に、美味しい和牛を食べていただける場をつくりたい、との京都府知事からの依頼や、京都ムスリム協会さんからの熱心な要請を受け、南山では、今年の3月からハラールについて勉強してきたのですが、本年6月、「京たんくろ和牛®」がハラール和牛に認証され、店舗全体が、10月1日から「ムスリムフレンドリー」認証店になりました



命あるものを神様に捧げ、許しを得て、皆で分けて一緒に食べるという、イスラームの美しい食文化には、正直カルチャーショック続きでした。
見えないものは怖い、というのと同じで、知らないというだけで異文化というのは、近寄りがたいものとして敬遠されがちです。
ところが、京都ムスリム協会の方々と何度も何度もお話しするうち、イスラームの世界観の素晴らしさにほれぼれすることになりました。



ムスリムの方々は、体に良いもの、安全なもの、清潔なものを食する知恵として、厳格なルールを信仰と共に守っておられるのです。ちなみに、豚は雑食だから、何を食べているかわからないということで、肉食獣を食べてはいけないというルールの延長線上でダメなようです。
お酒なしで楽しく食事を盛り上げるという食卓も魅力的です。


ハラール和牛として認証された「京たんくろ和牛®」は、6月から毎回、京都ハラール評議会のマフムードさんによってザブフ(捧げものとしてのと畜)され、感謝の祈りが捧げられています。
そんな「京たんくろ和牛®」のお味は、一般の方からもさらに美味しくなったと評価されているのですが、それは、最期の時を敬意をもって祈りと共にと畜されるということと、多少は関係があるのではないでしょうか。


9月29日(月)には、牛が大好きなマフムードさんも一緒に、京たんくろ和牛の育つ日本海牧場へ行ってきたのですが、足腰の強い京たんくろ和牛と、お母さん牛の短角牛の放牧風景には、癒されました。




「京たんくろ和牛®」は、京丹後市日本海牧場さんで30年ほど前から生産されてきた希少な和牛です。
日本短角和種のお母さん牛が、山で放牧され、黒毛和種を父に子を宿して、和牛間交雑種として生まれるのですが、最近は、地元産の牧草や稲わら、飼料米、京豆腐のおからなどで、飼料自給率が格段に上がり、健康第一に育っているのがわかります。


牛を愛する人達が互いに敬意を持って取り組んできたハラール認証の「京たんくろ和牛®」は、生産情報開示のJAS認証の和牛でもあります。



誠実な信頼関係を積み上げてつくられた、食の「安心」は、幸せな食卓と平和を支えるベースなのではないでしょうか。


アルコールと豚由来のものを使わない食事ということで、調味料や食材に細かなチェックが入り、豚由来のものを一掃。京都ハラール評議会さん立会いの下で3日間かけて食器や厨房の洗浄も行われ、いよいよ明日からハラール認証店としてのスタートを切ります。


幸せな焼肉屋であることを、しみじみと感謝しています。

食と農の魅力を伝え、人と地域を育てる食育事業

南山では、「食と農をつなぎ、お客様に元気をお届けするレストラン」をめざし、生産者さんや研究者、流通業者さんや料理人、医師や食アドバイザーの方々と共に様々な活動に取り組んできました。
このたび、これまでの活動を発展させて、農水省の「フードチェーン食育活動推進事業」に取り組むことになりました。
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/pdf/26hojyo.pdf


この食育活動推進事業の愛称は「いただきます・ありがとう協働隊」。
南山がこれまで一緒に学んできた「食と農をつなぐ愉快な仲間たち」とともに、
「力を合わせて耕し、豊かに分け合って食す」ことの楽しさ・嬉しさを伝えていければと思っています。

南山が取り組む食育事業の趣旨

畜産と農業による生産・流通・加工・調理までをトータルに学ぶ体験実習を各地の現場で展開し、「命あるものを食すことの尊さと、健康な心身を作るための食べ方」を普及。
この活動を通して国産農畜産物の需要を促進するとともに、未来の食と農の担い手である若者の仲間意識を育て、自炊力・自立力・生活技術を育てる。


「食べる、育む、生きる、つながる」をテーマに、未来の食と農の担い手となる若者(50代〜幼児)を中心に、様々な活動を展開しますので、ぜひご参加、ご協力、ご助言ください。


以下が当面の予定です。


●食べる(命をいただく感謝の思いを「おいしく食べる、元気に食べる」食べ事に!)
※6月22日(日)若者向け料理教室 火を使ってアウトドア料理を一緒に作り分けあいます。
※7月16日(水)牛の解体に挑戦(愛農高校酪農部の牛さんを、貝塚市の北出精肉店さんが解体し、お肉にしてくださいます。(バーベキューやドキュメンタリー映画「ある精肉店の話」の上映なども計画しています。)


● 育む(南山の3階テラスで、プランター野菜づくりやプチ百姓入門!)
※5月17日(土)には田植えに行って、南山の3階に小さな田んぼを作りました!
※6月21日(土)南山の3階テラスで、プランター畑の土づくりと種まき
※7月28日(月)田んぼの草取りと生き物観察 
※8月以降は生ゴミたい肥つくりや、冬には、きな粉づくり・お餅つき、お味噌造りにも挑戦します。
(協力:NPO法人スモールファーマーズ)


●生きる(食と農の分野で活躍される素晴らしい方々の生き方を学ぶセミナーやシンポジウム)
※7月25日(金) 木下牧場さんのお話「国産飼料100%の近江牛づくり〜牛は何を食べて、どんなお肉になっていくのか〜」(さまざまな牛のエサも見せてくださいます)
ドキュメンタリー映画「夢は牛のお医者さん」の上映会もあります。
http://www.nanzan-net.com/info/360
※8月6日(水)屠畜の文化を学ぶ勉強会(イスラム文化と日本の文化の違いを学びます)
※10月24日(金)「牛と共に生きる」元気な農業実践家によるシンポジウム
(ほかにも素敵な方々を講師に、学びの場をもつ予定です。)


●つながる(生産から消費まで、様々な立場の相互理解をはぐくむ見学や体験交流)
※6月18日 北海道の「完全放牧野生牛」の牧場見学ツアー
(農場、牧場、食肉センター、食品加工場見学や、害獣をおいしく食べる取り組みほか、様々な交流イベントを開催していきます)

お肉と野菜をしっかり食べて健康に美しく


「ハンケイ500M」という京都の地域情報誌に掲載された記事をご紹介します。


 

 南山は1971年の創業以来40年余り営業しているので、お客さまの年齢も高くなってきています。
 そんなお客さまの健康を考えて、お年寄や糖尿病で困っている方にも安心して食べていただけるメニューを提供しています。
 

 お肉をしっかり食べて炭水化物(糖質)を減らす「焼肉ダイエット」に成功した私自身の体験に加え、脳梗塞で倒れた母の介護体験を通して、良質のタンパク質である赤身のお肉を食べることが健康に良いということをあらためて実感しています。

 
 6月で 84 歳になる私の母は、昨年糖尿病から3度目の脳梗塞になって入院し、右手足と言語が不自由になりました。入院中はインシュリンを一日2回打ち、食事はカロリー制限食でしたが、退院後、家ではインシュリンと投薬は一切なし、糖質制限食だけで、血糖コントロールしています。
 食事は、牛肉や鹿肉の赤身をさっと炙った程度のレアのお肉や、硬い肉はカレーにしてアミノ酸豊富な黒ニンニクを入れたり、温泉卵や細かく切ったゆで卵をサラダにかけるなど、肉、卵、チーズ中心(炭水化物はなし)の食事は、効果はてきめんでした。


 一番の効果は、大便、小便が臭くなくなったこと。長年きつかった口臭もなくなりました。本人も目に見える効果に納得。介護する方も楽になりました。
 さらに、真白だった髪の毛や眉毛に、黒い毛が増えてきました。入院中にできた褥瘡(じょくそう = 床ずれ)もすっかりきれいに治りました。入院中は粗食だったので新しい細胞を作る材料となるタンパク質が足りず、傷が治りにくかったのです。


 昔は、食糧不足のなかで多少の炭水化物を食べても、運動での消費エネルギーが高く、糖尿病はありませんでした。今は、寒いときには暖かいところに、暑いときは涼しいところにいて、運動もほとんどしないうえ、精製炭水化物が氾濫し、糖質の取り過ぎで肥満や糖尿病が増えています。
脳梗塞の母を介護した体験から、糖質制限vsカロリー制限、肉食vs菜食ではなく、「肉菜健美」(お肉と野菜をしっかり食べて健康に美しく)をキャッチフレーズに、元気な細胞をつくりだす食べ方を提案しています。


 糖尿病の方のためには、いろんなものを食べても1食の糖質量が 2 0g 以下になる「肉菜健美メニュー」を充実させ、焼肉のあとにあっさり食べられる、沖縄の島豆腐を使った担々麺や野菜麺も新メニューに加えました。
南山では、「我慢して食べる」のではなく、「糖質制限でもこんなにおいしい」というお料理を提供していきたいと思っています。



※昨年度開催した「食と健康セミナー」の要約と牛肉の魅力についてまとめたWEB冊子「肉菜健美な糖質オフのすすめ」をぜひ参考になさってください。
http://www.nanzan-net.com/common/file/nikusaikenbi.pdf

業界に誇りと夢を

「健康に育った牛のお肉を、健康食・美容食として提供する」という取り組みは、生産から消費をつなぐとネットワークを強固なものにし、このネットワークにつながる人たちがどんどん増えていくことで、各分野に、若い後継者が育つようになりました。
「牛から分けてもらった愛と命を、敬虔な思いで分け合いつないでいく・・・。」そんな取組は、ムスリムの方からも支持されるところとなり、私たちはハラールについても学び始めました。「神からいただいた命を、神に捧げ、許しを得て分け合って食べる」というイスラム文化は、家畜を屠る仕事が一家の長たるお父さんのステイタスです。牛を屠り、解体し、料理するという仕事が、最高のステイタスとなる日を目指し、食肉の業界がワインに負けないかっこよい業界になれるよう、皆で力を合わせたいものです。

肉食批判に対峙しエシカルな牛肉を追求

短角牛というマイナーな和牛をアピールする事に一生懸命になりながら、もう一方で「肉食」という事への批判にどう対応するかという問題にも悩みました。
肉食は癌や肥満、血管障害をもたらす(?)という健康上の批判、環境を汚染するという批判、そして肉食は貧しい人から食べ物を奪い飢餓を生むという批判、更に、動物虐待への批判と業界への蔑視や、そこに横たわる差別問題にも向き合ってきました。
どんな牛肉ならば自信を持ってお客様に提供でき、この業界に携わるものが誇りを持ってより良い仕事に専念できるのか、私たちは生産者さんや流通業者、飼料会社さんや研究者、獣医師たちとも一緒になって勉強し、考えてきました。
その結果、今は、それらの批判をすべて跳ね除けて自信を持てる愉快な焼肉屋になれたかな、というところにいます。
まず、健康問題について、私たちは「糖質制限食」という目からうろこのような鮮やかな食養生について学び「焼肉ダイエット」実験も成功させ、牛肉がいかに体に良いものであるか、ほぼ毎月のように料理教室や「食と健康セミナー」などのイベントを開催して、美容食・健康食・長寿食としての赤身肉の効用をアピールしています。「人も牛も脱霜降り!」とばかりに、医師や管理栄養士にもご指導いただいて、糖尿病患者の方々に喜ばれる糖質オフ焼肉メニューも提供しています。  
環境問題については、放牧や自給飼料率を高める事と耕畜連携で地域の農を支える役割を畜産農家が担ってくださっていることで説明がつきますし、食糧問題にいたっては、人の食料と競合しない牧草中心に、食物残渣の利用と、田んぼの機能を守るための飼料米利用にも取り組んでいるという事で胸をはれます。動物福祉については、牛ができる限り牛本来のエサを食べて、無理やり太らされる事なく大切に育てられていること、何よりも、牛飼いがどんなに牛を愛しているか、私たちは生産者さんの思いを代弁する自信を持っています。
米も野菜も、もっと生きようとしている命あるもの。しかも花を咲かせる前のいのちを奪うのですから、牛がかわいそうで米や野菜がかわいそうではないということは大きな矛盾でしょう。毎日人に仕えられて、出産から出荷までを2年以上世話された牛が、人の食べ物になってくれる事は、決して残酷な事ではないということを、絵本やDVDなどの映像を通して訴えてもいます。

牛肉の安全安心を追求し短角牛に出会う

私どもは、牛肉の安全安心に自信を持ちたいと、2005年に日本各地の和牛を見て歩いて勉強し、「生産風景を消費者に見せられる牛」として、いわて短角和牛を主力商品に位置づけて「健康に育った赤身の和牛の魅力」を懸命にアピールしてきました。
2006年には、「霜降り和牛を卒業したら、短角牛にたどりつく」、というキャッチコピーで短角牛のギフト販売にもチャレンジしましたが、悲しいかな南山自体にブランド力がなかったため、短角牛というマイナーな和牛がブレイクすることはなく、3000通のDMに注文はゼロというショッキングな結果となりました。消費者は聞きなれない名のお肉をわざわざ食べたいとは思わないのです。
このことは、大変大きな勉強になりました。牛と牛肉の奥深さにのめりこんだオタク的な感覚で希少な牛の価値を訴えても、消費者の心をつかむ事はできずに空回りするだけでした。
消費者にとって「牧場」は、牛舎を意味するのではなく、あくまでも「マキバ」なのです。牛舎につながれたまま一生を過ごす銘柄牛も、牛の写真はたいてい緑の草地を背景に豊かな自然でのびのびと・・・というイメージですから、短角牛の本物の放牧風景がお客様にとって斬新な価値となる事はありませんでした。かえって、夏山冬里の現実(いわて短角和牛の大半は、生涯の4分の3以上を舎飼いにされている事)を説明しづらいもどかしさを味わう事になりました。

赤身肉の魅力をどう伝えるか

(遡ってのブログ更新ですが・・・)

2014年3月29日に筑波大学で開催された日本産肉研究会の学術集会で、南山の取り組みについて発表させていただきました。
以下、「赤身肉の魅力をどう伝えるか」についての講演要旨です。




当社は、京都・北山通りで1971年に開業した焼肉料理屋ですが、2001年のBSEを機に安全安心な牛肉を追求し、従来の「安価な輸入牛肉をタレの味で食べさせる焼肉屋」から脱却して、2004年からは和牛1頭仕入れに挑戦。現在は、いわて短角和牛、近江牛、京たんくろ和牛(短角牛×黒毛和牛)の3種(いずれも繁殖肥育一貫の和牛)と、様々なゲスト牛を取り扱って「お肉の個性を、ワインのように楽しみ味わえる焼肉店」として、試行錯誤を続けています。