yakinikunanzan会長の事業承継奮戦記

子育てと事業承継について

放牧の種オス牛「シチロウ」から学んだこと


4月25日、南山で、とても勉強になる試食交流会が開催されました。
田野畑山地酪農「志ろがねの牧」(吉塚牧場)の七代目種オス牛「シチロウ」のお肉を総勢42名でいただいたのです。


シチロウは、乳牛のオス。オスに生まれてお肉になる牛は、100%去勢されるので、オス牛を食べたことのある人など、めったにいません。
玉ありのオス牛なんて、硬くて臭くて、食べられたもんじゃないといううわさは聞いていました。
吉塚さんも、オス牛を入れ替えのために売るときには、家畜商さんから「オス牛なんて、まずくてライオンでも喰わない」と言われていたそうです。


ですが、吉塚さんは実際に食べてみて「オス牛といえども立派に美味しい牛肉だ」と自信を得ておられました。


そんなことを聞いたら、どうしても食べて確かめてみたくなるのが牛肉オタクの性。
そんなわけで今回の試食会となったのですが、南山では骨付きのロース1本を購入し、サカエヤの新保社長にお願いして、ドライエージングしていただきました。


結果は、新保社長のドライエージング技術の高さが証明され、驚きの香りが会場を包みこみました。
夕方からスタッフがシチロウのローストビーフを焼き始めたのですが、こんな強烈な美味しそうな匂いは、生まれて初めての感動ものでした。



前菜として出されたシチロウのローストビーフの左側は、完全放牧で育った短角牛の生ハムとベーコン、右側は、シチロウのお肉でつくったカレーです。どちらも岩手町の「肉のふがね」さんでお世話くださったものです。
奥に見えるサラダには、田野畑山地酪農牛乳でつくってくださった牛乳豆腐もトッピングされ、ローストビーフにも田野畑山地酪農牛乳のヨーグルトクリームが添えられました。



前菜が出されると同時に、会場では、ワインの説明が始まりました。
エーテルヴァインの江上さんがセレクトしてくださった乾杯用のスパークリングワインは、オレンジ色のにごり発砲酒
濾過しないで古代的な製法でつくられたワインは、1本1本、発酵状態もちがうのだそうで、生きたワインの魅力を語る江上さんのワイントークは素晴らしいものでした。



乾杯が終わると、本日のメイン、鉄で焼くシチロウの登場です。
葉山からおいでくださったクックアンドダインの山口壮一さんが、この分厚い肉の塊りを焼いてくださるのです。手前がシチロウ、奥が岩手の短角牛です。



この分厚い肉を、分厚い鉄のフライパンで焼くのですが、ここでもシチロウの熟成香はすばらしいものでした。



山口さんに焼かれたお肉はこんなにきれいに仕上がりました。左がシチロウ、右が短角牛です。



ほかにもシチロウのヒレとロースも焼肉で出し、超レアな珍味やリゾットやデザートもでましたが、シチロウを食べた皆さんの感想をまとめてみましょう。



「普通のお肉より好ましい」という評価と「普通のお肉と変わらない」という評価を足すと、33人中21人、63.6%の方々が普通のお肉並み以上の評価をしてくださったことになります。


もちろんこれは、生産者の話を聞いて、しっかりストーリーを聞いてから食べたという効果が絶大で、野趣にあふれる味が好きという積極的評価から、「これはヤギのお肉のような、普通の牛肉とはまったく違う別物だ」という意見まで、本当にいろいろで、にごったオレンジ色のスパークリングワインを、好きになるかどうかというのと同じような、「生まれて初めて食べるオス牛」の個性は味のあるものでした。


もちろん、南山の3種の和牛が、ものすごく美味しく感じたという結果も面白いものでした。


42人中、関係者以外の33人の方がアンケートに答えてくださったのですが、牛肉を選ぶとき何を重要視したいですかという問いに対する答えが、私にはとてもためになりました。



TPPで、安価な輸入牛肉がなだれ込んでくると、牛肉の安全性への不安が爆発してまたぞろ、牛肉のイメージダウンに巻き込まれるだろうと心配なのですが、参加者の皆さんが選ぶ基準は、「生産者と販売者の信用」が圧倒的で、餌や環境、動物福祉・・・とこみいったことは、プロに任せる、というのが、一般的な人の思いなのでしょう。


医療とて同じです。素人が調べて知識を得るには限界があります。いろいろな意見や情報を、その道のプロの「誰を信じて選ぶか」に行き着くのでしょう。


「よい牛肉」の選び方も同じことで、こまごまとマニアックなことを説明するより、誰がどこを目指してまじめに取り組んでいるのか、一般の消費者は、生産者や販売者のプロとしての姿勢から、「人を信じて選ぶ」ということなのだろうと思いました。


だからこそ、食のプロはもっともっと、もっともっと、絶えず勉強して信頼に応える誠実を尽くさねばならないのだと、痛感させられました。


100点でなくてもよい、少しでもよりよいものをめざして誠実を尽くすことで、私たちはこれからの役割をにないたいと痛感させられたのでした。


※記事中の写真は、食事会参加者の皆さんのものを拝借して使わせていただきました。
ありがとうございました。