yakinikunanzan会長の事業承継奮戦記

子育てと事業承継について

魂が大事にされる仕事

yakinikunanzan2007-10-30



消え行く文化を守ろうと捨て身になっている人々を、日本大学の川手督也先生は「すさまじくすばらしい人々」と形容なさいました。それは、昨年秋に岩手県の岩泉町へ短角牛の生産者さんや安家地大根を守る小野寺長十郎さんをを訪ねた際のことです。


その折にお目にかかった、岩泉町の伊達町長がおっしゃった言葉も忘れられない強烈なものでした。
「伊達の家がつぶれても日本に何の影響もないが、短角牛の生産者さんたちの暮らしがつぶれたら、南部牛追い歌の世界、貴重な日本の文化が消えてしまう。なんとしても生産者さんを守らないといけない。」


以来、短角牛の放牧風景の美しさに魅せられ、短角牛の味に魅せられ、生産者さんや産地の方々の人柄に魅せられ、岩手へ行ったり来たりの交流を続けるうち、来月の11月20日(火)には、「短角牛の魅力をとことん味わう会」と題した“生産者さんとの交流会”を開催することになりました。


ちっぽけな焼肉屋がこんな大それたことをやろうなんて! ここまでバカに徹するには特別なエネルギーが必要です。そんなエネルギーの源泉に浸りに鳥取へ行ってきました。
10月27日(土)に、地方出版文化功労賞第20回の表彰式と記念会が鳥取県立図書館で開かれたのです。



本の国体とも呼ばれるこの賞は、20年の長きに渡り、県民の審査による厳正な選考基準を設けて地方の出版物を表彰してこられました。


記念すべき第20回で奨励賞を受賞されたのは、長野県の毎日新聞の記者城島徹さん著「私たち、みんな同じ−記者が見た国際理解教育−」(一草舎出版発行)と、京都新聞出版センター発行の「織の四季−京の365日−」(藤井健三、佐藤道子共著)。こちらは新聞紙上での連載をまとめられた美しい本です。
 

受賞者のスピーチで、城島徹さんは、アフリカから長野に転勤になった実体験から「異なる民族、宗教、生活習慣を持った人同士が疑心暗鬼になっている」と語られ、多文化共生への長野県での身近な取り組みについて話されました。


もうひとりの受賞者西陣織物館顧問の藤井健三さんは、「今の京都は、東京で作られた日本の文化を背負わされて変革を繰り返しており、地方の『小京都』と呼ばれる地域などにこそ、何の脚色もされていない本当の京文化が残っている」と話され、これには大いにうなづきました。



授賞式のあとは、平井知事を交えての鼎談。
ここで、私は初めて、鳥取県が60万人を切る日本一人口の少ない県だということを知りました。

そして同時に、鳥取県では日本でトップクラスの予算が図書館に回され、活字文化が守られているということも知りました。


それでようやく鳥取県の読書人のレベルがだんとつに高い理由がわかりました。
この賞は、鳥取県民が毎年700〜800冊の地方出版物に対して投票を行い、その中から数十点が絞られた上、選考委員たちがすべてを回読した上で決定されるという、気が遠くなるような作業を経た大真面目なものなのです。


過去20年の受賞作は、どちらかというと地味な、世にはあまり知られていないまじめなものばかり。「よくぞ生まれてきた!」といいたくなるようなドラマチックな背景がありそうな本ばかりです。
そして、この賞自体もあまり世に知られているとはいいがたいようです。それは、過去の受賞者のほとんどが、受賞の知らせを受けるまでこの賞の存在を知らなかったということからもわかります。


それだけに、受賞者とこの賞の主催者たちの出会いのドラマは感動的で暖かく、お互いが「困難な仕事を続ける気力」を支えあってきたといってよいかもしれません。


その昔・・・出版業に専念していた9年前に出した売れない児童書に、この賞の特別賞をいただいたのが8年前。出版業から足を洗いパートや派遣で5人の子を食べさせるぎりぎりの暮らしをしていたときのことでした。


あの夢のような出来事が、夢ではなかったことを確かめに鳥取まで出かけた日帰りの一人旅でした。
丸めて捨てた志をゴミ箱から拾い上げて広げ、しわを伸ばす・・・そんな心境にさせられた8年前の授賞式の日の思い出が、いつまでも鮮明なのは、鳥取の方々が今も「小さなものの意地」にエールを送り続けておられるからなのかもしれません。