yakinikunanzan会長の事業承継奮戦記

子育てと事業承継について

南山流おいしい牛肉の要件


実は、南山が和牛を仕入れるようになって、戸惑ったことがあります。
黒毛和牛は、確かに輸入肉より格段においしいのですが、
「本当においしい」と言い切れるかというと、自信のないものもあったのです。


すばらしいサシの入った美しい和牛は、いかにもおいしそうなのですが、
それが、え? と疑問に思う味の時もあったのです。
当初は、高価な和牛の味を知らなかったので、「これが世間ではおいしいと
讃えられている味なのか・・・」と裸の王様を誉める気分で、この味に
なじもうとしていたのですが・・・


南山なんかよりずっとレベルの高い、評判の焼肉店で食べる黒毛和牛でも、
高級な精肉店で買ってきて食べた黒毛和牛でも、「はずれ」の味の和牛に
出くわすことが重なると、これはやっぱりおかしいと思うようになりました。


その後、牛肉の調査研究事業に取り組んで知ったのは、「ニセ刺し」といわれる
不健康な霜降り肉が作られているということで、ビタミン欠乏によって
目が見えなくなったり、カッケ・足腫れで立てなくなったような牛が、
最高級の霜降り肉になっている・・・ということなのです。


信州で、牛舎の香りにひかれて立ち寄ったところでも、そこの
気のよい牛飼いのおじさんは、当たり前のようにこうおっしゃっていました。

「そんなもん、ビタ欠にせにゃサシなんて入るかい。最近はBSEと間違えられ
ないように、ぎりぎり歩ける程度に調整してる。畳を敷いて育ててるなんて話題に
なったところの牛も、転んだ牛が怪我せぬようにと畳を使ったのが、大げさな
評判になっただけ。わしは、自分の牛でもレバーは食べたいとは思わないねぇ。」


黒毛和牛の肝臓廃棄率は60%以上といわれていますので、いかに無理な脂肪が
つくられ「ニセ刺し」とまで言われているか、分かろうというものです。


滋賀県朽木村で宝牧場の田原社長をお訪ねした時、「ニセ刺しの黒毛和牛は
まずい! ニセ刺しの和牛よりはF1(交雑牛)の方がずっと美味しい」と
きっぱりいわれました。
本当にそうなのだと思います。


個体識別番号から調べても、まずかった牛がどんな育てられ方をしたかは、
全く見えてきませんし、誰にこの悔しさを訴えてよいか、どうしようもありません。

一方、生産者さんにとっては、誰が食べるかわからない牛を、市場に運ぶだけ
という仕事は、かなりつらいものなのではないかと思います。
1000頭以上の牛を、2人で世話をして低コストの和牛づくりに挑戦して
おられる牧場も見ましたが、牛も、職員も、いたたまれない表情に見えました。


そんな業界にあって、お客様からの「おいしかった」という声を励みに育て
られているのが南山の産直牛です。
命の糧をお客様に提供することを仕事にするなら、生産者から調理人、
サービスする人からお客様へと「よい気」をつなげていきたいものです。
愛情深く育てられた牛が、嫁入りするようにていねいに運ばれてくるのが
南山の産直牛。
こんな生産者さんの誠意に報いられるよう、南山も心してていねいな調理と
接客を! と、日々反省しながら努力を重ねております。


気のせいか、最近はさらにおいしくなってきたように思います。