yakinikunanzan会長の事業承継奮戦記

子育てと事業承継について

赤身肉の魅力をどう伝えるか

(遡ってのブログ更新ですが・・・)

2014年3月29日に筑波大学で開催された日本産肉研究会の学術集会で、南山の取り組みについて発表させていただきました。
以下、「赤身肉の魅力をどう伝えるか」についての講演要旨です。




当社は、京都・北山通りで1971年に開業した焼肉料理屋ですが、2001年のBSEを機に安全安心な牛肉を追求し、従来の「安価な輸入牛肉をタレの味で食べさせる焼肉屋」から脱却して、2004年からは和牛1頭仕入れに挑戦。現在は、いわて短角和牛、近江牛、京たんくろ和牛(短角牛×黒毛和牛)の3種(いずれも繁殖肥育一貫の和牛)と、様々なゲスト牛を取り扱って「お肉の個性を、ワインのように楽しみ味わえる焼肉店」として、試行錯誤を続けています。

牛肉の安全安心を追求し短角牛に出会う

私どもは、牛肉の安全安心に自信を持ちたいと、2005年に日本各地の和牛を見て歩いて勉強し、「生産風景を消費者に見せられる牛」として、いわて短角和牛を主力商品に位置づけて「健康に育った赤身の和牛の魅力」を懸命にアピールしてきました。
2006年には、「霜降り和牛を卒業したら、短角牛にたどりつく」、というキャッチコピーで短角牛のギフト販売にもチャレンジしましたが、悲しいかな南山自体にブランド力がなかったため、短角牛というマイナーな和牛がブレイクすることはなく、3000通のDMに注文はゼロというショッキングな結果となりました。消費者は聞きなれない名のお肉をわざわざ食べたいとは思わないのです。
このことは、大変大きな勉強になりました。牛と牛肉の奥深さにのめりこんだオタク的な感覚で希少な牛の価値を訴えても、消費者の心をつかむ事はできずに空回りするだけでした。
消費者にとって「牧場」は、牛舎を意味するのではなく、あくまでも「マキバ」なのです。牛舎につながれたまま一生を過ごす銘柄牛も、牛の写真はたいてい緑の草地を背景に豊かな自然でのびのびと・・・というイメージですから、短角牛の本物の放牧風景がお客様にとって斬新な価値となる事はありませんでした。かえって、夏山冬里の現実(いわて短角和牛の大半は、生涯の4分の3以上を舎飼いにされている事)を説明しづらいもどかしさを味わう事になりました。

肉食批判に対峙しエシカルな牛肉を追求

短角牛というマイナーな和牛をアピールする事に一生懸命になりながら、もう一方で「肉食」という事への批判にどう対応するかという問題にも悩みました。
肉食は癌や肥満、血管障害をもたらす(?)という健康上の批判、環境を汚染するという批判、そして肉食は貧しい人から食べ物を奪い飢餓を生むという批判、更に、動物虐待への批判と業界への蔑視や、そこに横たわる差別問題にも向き合ってきました。
どんな牛肉ならば自信を持ってお客様に提供でき、この業界に携わるものが誇りを持ってより良い仕事に専念できるのか、私たちは生産者さんや流通業者、飼料会社さんや研究者、獣医師たちとも一緒になって勉強し、考えてきました。
その結果、今は、それらの批判をすべて跳ね除けて自信を持てる愉快な焼肉屋になれたかな、というところにいます。
まず、健康問題について、私たちは「糖質制限食」という目からうろこのような鮮やかな食養生について学び「焼肉ダイエット」実験も成功させ、牛肉がいかに体に良いものであるか、ほぼ毎月のように料理教室や「食と健康セミナー」などのイベントを開催して、美容食・健康食・長寿食としての赤身肉の効用をアピールしています。「人も牛も脱霜降り!」とばかりに、医師や管理栄養士にもご指導いただいて、糖尿病患者の方々に喜ばれる糖質オフ焼肉メニューも提供しています。  
環境問題については、放牧や自給飼料率を高める事と耕畜連携で地域の農を支える役割を畜産農家が担ってくださっていることで説明がつきますし、食糧問題にいたっては、人の食料と競合しない牧草中心に、食物残渣の利用と、田んぼの機能を守るための飼料米利用にも取り組んでいるという事で胸をはれます。動物福祉については、牛ができる限り牛本来のエサを食べて、無理やり太らされる事なく大切に育てられていること、何よりも、牛飼いがどんなに牛を愛しているか、私たちは生産者さんの思いを代弁する自信を持っています。
米も野菜も、もっと生きようとしている命あるもの。しかも花を咲かせる前のいのちを奪うのですから、牛がかわいそうで米や野菜がかわいそうではないということは大きな矛盾でしょう。毎日人に仕えられて、出産から出荷までを2年以上世話された牛が、人の食べ物になってくれる事は、決して残酷な事ではないということを、絵本やDVDなどの映像を通して訴えてもいます。

業界に誇りと夢を

「健康に育った牛のお肉を、健康食・美容食として提供する」という取り組みは、生産から消費をつなぐとネットワークを強固なものにし、このネットワークにつながる人たちがどんどん増えていくことで、各分野に、若い後継者が育つようになりました。
「牛から分けてもらった愛と命を、敬虔な思いで分け合いつないでいく・・・。」そんな取組は、ムスリムの方からも支持されるところとなり、私たちはハラールについても学び始めました。「神からいただいた命を、神に捧げ、許しを得て分け合って食べる」というイスラム文化は、家畜を屠る仕事が一家の長たるお父さんのステイタスです。牛を屠り、解体し、料理するという仕事が、最高のステイタスとなる日を目指し、食肉の業界がワインに負けないかっこよい業界になれるよう、皆で力を合わせたいものです。