祈りをこめていただく牛肉
2月の末に、岩手で「ソウルオブ東北」のシェフツアーが開催され、岩泉と田野畑へ行ってきました。
南山でも大変お世話になったロレオールの伊藤勝康シェフがリーダーとなって東北の素晴らしい食をシェフたちにつなげるという企画、「シェフと山・海・里の産地連携プロジェクト」です。
このシェフツアーの感動的レポートは、スローフード岩手の事務局「今日の田舎」ブログに詳述されています。
レポート1 牛たちの現場を訪ねるシェフたち http://kyounoinak.exblog.jp/20084913/
レポート2 短角牛と地元の食材を使ったシェフたちの料理の競演 http://kyounoinak.exblog.jp/20089334/
レポート3 一流シェフたちの魔法にかかったテーブルのごちそう http://kyounoinak.exblog.jp/20091092/
レポート4 シェフツアーによってもたらされた地域の自信 http://kyounoinak.exblog.jp/20110434/
生産者とシェフの交流会に参加された短角牛農家さんのブログにも、ステキな記事となっているのでぜひお読みください。
「農家の嫁の事件簿」 http://kamatsuta2.exblog.jp/18709094/
私は、シェフたちがおいでになる前日に、長女が嫁いだ先の田野畑山地酪農の牧場へ行っていたのですが、実は、田野畑に着いたその日に奇跡のような出来事が起こりました。
山地酪農「志ろがねの牧」の7代目種雄牛「シチロウ」がついに出荷されるという連絡が入ったのです。
田野畑の山地酪農では、穀物飼料に一切頼らず山の芝草と自給の牧草だけで牛を育てておられるのですが、真冬でも搾乳時以外は牛は牧に放し、自然交配で子を宿すので、牛の群れを率いる種雄牛は、人間の都合など関係なしに群れを守ろうとして人間を威嚇して威張っています。
シチロウは、その種雄牛としての誇りが嵩じて、おやじさんも息子たちも何度も危ない目に会うこととなり、と畜すべく昨年の秋から奔走なさっていたのですが、なかなかと畜の順番が回ってこず、えさ代と危険な状況を考えれば安楽死も仕方ない・・・と、あきらめかけていた矢先、今度こそ本当に屠場へ運んでもらえると言う連絡が目の前ではいったのです。
放牧するのは危険すぎるため牛舎で過ごしていたシチロウは、牛舎も破壊しかねない勢いで暴れるため、クレーン車につながれています。
いよいよ明日が屠場へ行く日となったことが牛たちにも分かるのか、シチロウに別れをつげにきたメス牛とずっと見詰め合っている姿がありました。
屠場へ行く前にはきれいにシャンプーです。人に襲い掛かってきたシチロウが、おとなしく身を任せています。襲われて死にかけた飼い主も、最後の別れを丁寧に丁寧に・・・。長男の公太郎君が体の隅々まできれいにしています。
そして翌朝5時に、農協のトラックが迎えに来てシチロウは積み込まれました。
あれほど強暴だったシチロウですが、覚悟ができているのでしょう。一声も吼えずに従順にトラックに足を運び、静かに屠場へと連れて行かれました。
牛もブタも、男の子に生まれてきたら、種雄牛になれない限りは去勢されます。
シチロウは、選ばれし幸せな牛でした。牛らしく群れを率いて、こんな美しい山の中で生きたくさんの子孫を残すことができたのです。
お米は芽を出すことも土に触れることもできずに食となる命。野菜は、これから花を咲かせようとする前に摘み取られる命、子孫を残すことなく、本来の命を咲かせることなく食となる命と比べ、シチロウは本当に幸せな牛だと思います。
さて、そんな幸せな希少な牛のお肉がシェフツアーに参加されたシェフたちに使っていただけるようにと、岩手の「肉のふがね」さんが一肌脱いでくださいました。
短角牛に魅せられ、岩手の復興に専心なさっている肉のプロが、シェフたちへのお肉の振り分けをしてくださるのですから、こんなにありがたいことはありません。
ぜひぜひ、男の中の男、田野畑山地酪農の種雄牛「シチロウ」を食べてやってください。
お問い合わせは、「肉のふがね」へぜひ!
南山では、ロースとヒレを骨付きで1本サカエヤの新保社長に預けてドライエージングしてもらっています。
ドライエージングが仕上がるのは5月ですが、それ以外に、ハラミ・ツラミ・タン・テールもいただきました。
今週末から少しずつおすすめメニューに登場させる予定です。
食となる命をいただくこと・・・。
近江牛を19産した「なかのり号」を食したときの感動のように、去勢されていない牛が、美味しく食卓に上るなら、また牛肉の常識がひっくり返ることになります。
楽しみでわくわくします。