yakinikunanzan会長の事業承継奮戦記

子育てと事業承継について

農家さんの「気持ち」、すごいお土産

yakinikunanzan2008-10-18



昨日、木下牧場の木下その美さんたちが、遅がけにご来店くださいました。
急なことなので何事かと思ったのですが、後藤お父様・お母さまと、ご主人、次女のさやかちゃんの5人でにぎやかにおいでくださり・・・、
「やっとのことで、うちの牛のマクとハラミが手に入ったので、一緒に試食してもらおうと思って・・・!」
とのこと。


なんというビッグなお土産かと度胆を抜かれました。


木下さん一家(左が長女の美奈さん、右が次女のさやかちゃん)


昨年までは近江牛には、枝肉(内臓を取り除いて半身につるされた赤身の肉)の左側に、マクとハラミがついていたのですが、近江牛特有のこの慣習は新屠場ができてからなくなってしまい、マクとハラミも内臓として別ルートで流れていってしまうことになったのです。


木下さんたちは、そんな貴重なものを、何とか入手して、その喜びと共に南山へお届けくださったのでした。


自給粗飼料と母乳で育った木下さんのところの牛の内臓は、一目でわかるような上物だそうで、その貴重な価値あるものが生産者さんの利益にはならないで、「処理されるもの」として手の届かないところにいってしまうのですから、悔しいことです。


木下さんからいただいた貴重なハラミは今日から南山で「幻のハラミ」と、「幻のハラミのシャトーブリアン(ステーキカット)」という名で、南山の「本日のおすすめメニュー」に載せられました。お客様にこんな希少なものを提供できるということは、本当に有難いことです。


子牛登記のコピーまでいただいた、正真正銘のプレミアム近江和牛のハラミです


さて、昨日は朝から京都府農林水産部担い手支援課の会議があり、私もその席に出させていただいたのですが、難しい専門用語(行政用語?)でまとめられた政策の原案説明にはなかなかついていけず、正直、一人でおろおろしてしまいました。
というのも、行政の方々がここまで精力的に農業への企業参入や新規就農を促進しても、これではすぐに行き詰ってしまうのでは・・・と、心配でならなくなったからです。


女性の社会進出に伴って子育て支援策、男女共同参画社会への啓蒙が華々しく行われましたが、それでも、少子化と家庭の子育て能力の低下に歯止めはかからず、親元で養育してもらえない子どもたちが児童養護施設にあふれかえっています。


農業も、子育て同様、「いのちの根幹を担う業」として、他産業とは比較できないものと割り切り、もっと別の価値観で社会のベースとして組み立てていかないとだめなのではと思わされたのです。


こんなはずではなかった・・・と痛烈に思い知らされる子育てのつらさを乗り切るのは、経済合理性とはかけ離れたところにある価値の享受です。
農業も、現実の厳しさをきちんと知った上で、何を代償として求めるのかをはっきりさせておかなければ、新規参入、新規就農を促進したところで、家庭崩壊以上のもろさですぐに破綻してしまうのではないかと思うのです。


何らかの半農半Xの推進や、あるいは、社会全体が「男子も家事ができて当たり前」となっていったように、基本的には自分の食べ物は自分でつくるべしということを、料理だけでなく農にまで及ぼし、つくり手と食べ手の関係がきちんとわかる共同体をまとめていくことなど、何かもっと大事なことがあるのでは・・・などと、いろんな思いがめぐりました。


そんな悶々とした思いを抱えながら、同じ会議に東京の練馬区からご出席くださっている「大泉風の学校」の白石好孝さんをお誘いして、下鴨にある小さな八百屋をご案内したり、その八百屋で仕入れて料理を出しておられるレストランや、上賀茂の農家さんのお屋敷へもご案内し、南山でランチをご賞味いただきました。


白石さんは、東京都内で都市型農業のあり方を追求し、体験農園のノウハウを確立されたものすごく面白い方で、京都府の会議でも、毎回白石さんのご発言が楽しみのひとつになっています。


なんと白石さんもお子さんが5人! そんな共通点もあって、ずいぶん盛り上がってしまいました。


白石さんを見ていても、家族力というのか、経営以前の家庭経営力というものの大切さを見せ付けられる思いがするのですが、先述の木下さんたちのすばらしさも、ここにあります。



今、畜産業界にもすさまじい逆風が吹き荒れていますが、木下牧場さん、後藤牧場さんは、ますます元気で注目されています。
近江牛繁殖一貫に取り組まれた初代の後藤お父様(その美さんのお父さん)の指導のもと、その美さんたちは徹底した家族経営+素敵な仲間のネットワークと、インターネット(ブログ)での惜しみない情報発信、そこから還流される最先端情報の入手・・・と、まさに善循環。上記の雑誌に掲載された笑顔満面が、常態化している、笑いの絶えないすごいご家族で、お嬢さんお二人もたたき上げの畜産のプロです。


その美さんの長女、美奈さんは、おじい様(後藤お父様)から高校の進学祝に雌牛(繁殖牛)をプレゼントされたそうで、先ごろ美奈さんの牛から生まれた牛さんも立派に育って出荷されたのですから、この教育力と家族力は、ほんとうにすごい! の一言です。



繁殖者の欄に「木下美奈」と書かれた子牛登記


生コン打ちも、鉄筋の養生も、牧柵づくりも、種付けでも何でも自分たちでやる開拓者精神が、家族力をますます高めていっておられるのか、「家族がいて、仲間がいて、笑顔がある」という、何事にも代えがたい最高の幸せをつかんでおられ、そのベースにある人一倍の苦労など表には決して見えてきません。


これを企業経営でできようはずがありません。


非農家の私たちの食糧安保は、農を支えるしっかりとした小さな共同体に食い込んでいくこと。これしかないかなと思わされています。


木下さ〜ん! ハラミ、今日で完売しちゃいましたよ〜!
本当にありがとうございました。
今後ともどうぞよろしく! です。